2014年5月3日土曜日

ショートストーリー 後編





 
いいかげん、この関係にピリオドを落とさないとならない
「好きなやつが出来たからお前とはもう寝ない」


少しくらいは驚いてくれるかと、甘い期待をしていたが「ふーん、わかった。」そういって去っていった。
結局、お前の中で俺という存在は都合のいい他人にすぎなかったわけだ。




まあ、その通りなんだけど。

目を合わせることさえできずに過ぎた一週間、お前が付き合い始めたと、言葉が耳に入った。


お前が俺を嫌がっていたのはわかってた、だから別れを俺から切り出した。嫌でも抱かせてくれたくらいだ、俺からいわなきゃならなかった。



覚悟はしていたはずなのに耳に入ってくる言葉たちはナイフとなって容赦無く傷をつける。
傷口はかさぶたに覆われることなく、ドロドロと血を流し俺を染め上げる。


この心が暴れないように、俺はそっと錠をかけた。















「好きなやつが出来たからお前とはもう寝ない」


悪夢を、覚めない悪夢を見ているようだった。薄い氷の上に建っていた危うい俺たちの関係はバラバラと崩れた。
いやだと、泣きじゃくりすがりつければよかったのに。女々しい奴だと思われても構わない。



「ふーん、わかった。」
最後の強がり、どうかあいつにはバレないで。声が震えたこと、強く拳を握っていたこと。
どう接していいかわからない、話すどころか目を合わすことさえ難しく。







そのうち俺が誰かと付き合ってると噂が流れ始めた。





淋しさを埋めるために何度か女の子に手を出したが、虚しさが積もるだけで結局誰とも長くは続かなかった。
噂なんてどうでもいい、あんたの好きだと言っていた子はきっとこんな軽い女の子じゃないだろうし




もし俺が女の子だったらあんたは俺を好きになってくれたか?聞いたところで無駄だと、意味は無いとわかってるけど。
横で彼女面な女の子、好きだと伝えた覚えはないしそう思ったこともなかった。


「彼氏」というアクセサリーが欲しいだけなんだろ?




キスをしてやると余裕の表情で。あいつに抱かれていた時、俺はうまく気持ち隠せていたか?












鍵をかけたはずの心が激しく暴れ出す、嫉妬でぐちゃぐちゃになりそうだ。
目の前の深いキスをしてる恋人たち、お願いだからこっちに気付かないで。





きっと俺は自分を抑えられなくなってしまうから。



















もう女の子と付き合うのも飽きた、面倒くさい。
あんたとだったら飽きることなんてないんだろうな。ちりっと胸が痛む。




好きな子できたって言ってたけど未だに彼女はいないらしい、よかった。
誰があんたの想い人か知ってしまったら俺は自分を止められそうにないから。



放課後、誰もいない教室。突っ伏し寝ていたあんたの席にそっと触れる。





あるわけないけど、あんたの体温が伝わってくるようで長いことそうしていた。










どうしてお前が俺の席を眺めているんだ?忘れてしまった教科書を取りたかったが、入りにくくてお前が帰るのを待った。
動きだしたと思ったら俺の席に手を置く、ずっと止まったままでなにをしてるんだ?


ポツリ、お前がなにか呟いた気がしたが声は聞こえなかった。




帰るお前を見届けて教科書を取る、机はポツポツと濡れていた。泣いていたのか?













知らないうちに涙が溢れそうになる、「愛してる」



言いたくても言えなかった言葉、きっとこの先あんたにいうことはないだろうけど。
早く行かなきゃ誰かくるかもしれない、こんな顔見られたくない。


教室で物音が聞こえる、見られたかもしれない。誰に?





 
 

やめて、やめてくれ。なんであんたがそこにいるんだよ。見ないでくれよ、女々しい俺を。
身体の力が一気に抜け落ちた。音に振り向くあんた、俺と似たような表情で。























大きな音に振り向いた、お前が座り込んでいた。どんな顔していいかわからない。
なんて声をかければいい?無難な言葉しか出てこなくて、結局「大丈夫か?」
俺の言葉なんて聞こえてないように目線を合わせないお前。












お願いだから、こんな俺を見ないで、「大丈夫か?」なんて優しい言葉を掛けないで。
心に頑丈に縛りつけた鎖が爆ぜる音が聞こえた気がした。目の前のあんたを押し倒して抱きしめた、あんたの体温を感じたくて…強く。



「好きだった、あんたのこと」







なにをお前が言ってるかわからなかった、頭が真っ白になるってのはこうゆーことか。
「気にしなくていいから、忘れてくれ」と言って帰ろうとするお前。
ふざけんなよ、逃がすわけねぇだろ!離れていく手首をつかむ、涙を拭ったのか濡れていた。




「忘れられるわけねーだろ!俺が嫌いなんじゃねーのかよ!?キスも拒みたくなるほど…」







 
 



キスの時の涙、勘違いされた?あんたのこと好きすぎて零れた涙。
俺は自惚れてもいいのか?違ったとしてもこれで最後、吹っ切ればいい。














唇に触れるだけのキス、俺の気持ちをかっさらう。不安気に揺れるお前の瞳。
いいのか、俺なんかを、本当に?いまさら嘘とか言っても許さねーよ?ずっと言いたかった言葉。いいんだよな、言っても。




「…好きだ、お前のこと」


もう一度俺たちはお互いを確かめ合うかように深くキスをした。






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